
“野草”を知ると世界が変わる
野草研究家、山菜知識者、野草生花師、食育指導士、、、様々な肩書きを持ち、「ハーブ王子」として活動されている山下智道さん。ワークショップや野草ガイドを通して、日本に古くからあるハーブや野草の知恵、伝統を守り、つないでいこうとされています。
「野草」を切り口に、里山の活用や環境の変化について、石坂典子と対談をしていただきました。

石坂 お母様がお花が好きで、お父様が登山家で、植物や自然に触れる機会が多かったというのはあると思うのですが、そこまでの知識というのは、そう簡単には手に入らないと思います。普通に好きということだけではなく、そこまで野草に心酔されたポイントはどこにありますか?
山下さん(以降 敬称略) 4歳の頃からずっと生け花をやってきて、そのときに活けていたのが、マンサクやロウバイなどのいわゆる山野草だったんです。最初は嫌々やってたんですけど、そこからどんどんのめり込んで、山に行って切ってきて活けたり、好きになっていきました。
日本古来の万葉集や古事記には、必ず植物が登場しますよね。どんな植物にも必ず歴史があって、由来や名前がある。それを紐解いていくと、昔からの様々な文化がつながっていくんです。日本の食文化には必ず野草が入っているし、「この地域だからこの植物があって、この地域はこの草で草団子をつくる」など、意味が分かってくると歩いていても面白い。もともと骨董品が大好きなこともあり、「歴史」と「植物」がつながる瞬間に、とても楽しさを感じます。
石坂 野草を、「伝統」や「歴史」と結びつけて考えるというのが、当社の里山に対する考え方とも共通していますね。
山下 あとは、1つ1つ顔が全然違っているからですね。タンポポ1つとっても、1種類覚えようとしたら、タンポポの仲間の約30種類を把握しないと、ちゃんと分からないじゃないですか。僕はコレクター欲もあるので、標本採集して家に置いておくことで、自然と覚えていきました。
石坂 図鑑を見るだけではなくて、実際に現地に行って探して、スケッチして自分のものにする、というスタイルになっていったきっかけはありますか?
山下 山で観察会などしているとき、お客様から「何でも答えてくれるね」と言われたときにすごく嬉しくて、「日本の植物を全て把握したら、日本中どこでも観察会ができるな」と思うようになったんです。そうしたら、どんどん欲が出てきて、「海に行っても海で観察できるようになりたい」と思って海藻を覚えたり。今は、日本の1万種類をしっかり把握するというのを目標にしています。
石坂 「野菜」と「野草」って、似ているようで全く違うものですよね。なぜ「野菜」ではなく「野草」に興味を持ったんですか?
山下 摘んですぐ食べられるからですかね。九州から上京したてのとき、東京の野菜が高くてびっくりしたんです。レタスがないときに、タンポポを摘んだりしていたので。知識さえあれば、摘めて、調理できるっていう手軽さは魅力だと思います。
でも、野草を育てるのはなかなか難しいんですよ。野菜は発芽率が一定なんですが、野草は一年中発芽率がバラバラなので、安定して供給できないので「野菜」になれない、という面もあるんです。
石坂 昨今、「野菜」は価値が高いものになりつつあるけれど、「野草」の新たな価値はまだ知られてない。野草って美しいじゃないですか。その美しさを感じてもらいたいと思いますね。
山下さんにとっての「野草」とは何ですか?
山下 人生をかけるものです。一生おつきあいできますね、野草、植物は。やればやるほどどつぼにはまっていくというか、深すぎますね。
石坂 観察会で、「何となく野草に興味はあるけどまだよく分からない」という方に、野草の魅力についてどのようなお話しをされていますか?
山下 タンポポを例に挙げると、「エジプトやヨーロッパではこうして使われている」「イタリアではレタスより高級」など、日本だけでなく他の地域での食文化や生活の話も織り交ぜていくと、新しい発見につながります。これはボルシチに入っている、とか、この化粧水の成分に使われている、とか。
石坂 確かに、そういう伝え方をされるとすごく面白いですね!1つ1つの野草の特徴を伝えることだけなく、その野草の置かれている世界的な扱われ方、見られ方も含めて伝えることによって、より面白さを引き出して伝える、ということなのですね。
山下 そうですね。観察会等のイベントに参加される方の8割は「どうやって食べられるか」というところに興味を持っていらっしゃいます。食べ方や薬効に関心がある方がほとんどですね。
石坂 魅力的だということを知らない方が多いから、魅力をどう伝えていくかが大事だと思います。そこに、知識の高い山下さんのような方が来られることによって「へぇ~そうなんだ!」「大切にしよう」という気づきがあると思うんです。


石坂 環境という目線から見たときの野草への影響、変化はありますか?
山下 やっぱり、在来種は減ってきていますね。例えば、オオイヌノフグリという青い小さな花がありますよね。あれがどんどん増えて、絶滅危惧種になっているイヌノフグリがすごく減っています。新しく町が開発されて、工事とともにいろいろな種子が入ってきて、外来種(帰化植物)が増え、在来のものが減っている、というのは影響が顕著に表れています。
石坂 野草にも在来種/外来種があることを、一般の方は知らないですよね。野菜も同じで、今市場に出回っている野菜はだいたいが「F1種(※1)」だったりしますが、石坂ファームでは「固有種(※2)」にこだわって栽培をしています。
さっきタンポポの話がありましたが、例えば「日本のタンポポの価値」ってどういうところですか?
山下 セイヨウタンポポは自家受粉で増えますが、ニホンタンポポは他のタンポポと交配しないと増えないので、現在どんどん数が減っています。
デリケートなんですが、粒が大粒なのが特徴で、ニホンタンポポの方が実は賢いんですよ。発芽率も圧倒的に高いですし、夏場に寝て冬場に起きるシステムがあります。ニホンタンポポはタンポポの中では最先端な生き方だと思います(笑)。
石坂 それは知りませんでした!
生息する環境、という点で言うと、コンクリートを打つことで、野草が生育する場所がなくなっていってますよね。
山下 そうした環境でも生きていける植物は生き残って、繊細な植物はいなくなっています。だから、田んぼの周りに生息していた植物は、多くが絶滅危惧種や準絶滅危惧種に指定されています。あとは、農薬の影響で種子が決裂してしまう影響も出ています。春の七草のタビラコ(ホトケノザ)など、関東ではかなり数が減っていますしね。里山を放置してしまう地域が多いですから、カタクリなども少なくなっていますし。
石坂 「里山」という観点で見ると、「野草」と結び付けることによって、里山がもう一度見直されるのではないかと思っています。
「野草」から里山を見たときに、どういう付加価値が生まれるのか、そういうのを伝えてもらえると、全国の里山が抱える問題にも解決の道筋が見えてくると思います。
里山の付加価値を高めて活かす、と考えるとき、私たちはどうしても「人から見た里山」という目線でものを見てしまうんです。人間から見たときに価値があるかないかではなく、「生態からみた里山」と考えると、そこでは食物連鎖が脈々と続いている。里山は「生態の宝庫」ということも伝えていってほしいです。
里山と自然林では、生えている雑草も違いますよね?
山下 違いますね。手入れをしてやらないと、キンランやギンランは絶対出てこない。こうした希少な植物があるというのは、ちゃんと手入れができているということです。オオバノトンボソウなんかも繊細なので、手入れされていることがよく分かります。
石坂 我々が守ろうと管理しているものでも、それが使えるものだと伝えた途端、取っていく人が出てきます。だから「ひっそり楽しむ」ように、野草ファンも、程度をわきまえることが必要ですね。
山下 野草はもちろん採って良いのですが、希少種を採られると大変です。採ることが目的の方には、あえて言わないときもあります。
石坂 里山の植物は、高山植物と一緒で、“ここにあるから美しい”ものだと思うんです。自然に生えているものを採られるとなくなってしまうので、ここにある、ということを楽しんでもらいたいんです。本来「自然」って自由なものかもしれませんが、われわれが保全管理している意図としては、人間が自然をコントロールすることではなく、「生態系の中にわれわれが遊びに行かせていただく」という気持ちで里山を捉えています。その考え方を理解してもらうための活動や説明をさせていただいています。
野草ファンは増えてほしいし、興味を持っていただきたい一方で、「これは守ってほしい」というメッセージはありますか?
山下 たくさん採っても良い植物はあるんですが、ちょっと摘んだだけで消えてしまう植物も多いということです。意図的ではなく、知識がないがゆえに採ってしまう、ということもあると思うんです。だから、知識を持って正しく採ることで守られる種がある、ということは発信したいですね。
石坂 山下さんは探求心が並大抵ではないですよね。教科書があったわけではない中で、自分で研究して体系化されてきたというのが素晴らしい。
例えば「野草医」のような、野草へのアドバイスをする新しい仕事をつくることもできますよね。
山下 面白いですね。樹木医ではなく野草の、草本系ドクター。最近、ガーデニングに野草を取り入れたいという方も多いんですよ。
石坂 山下さんの肩書きである「野草研究家」とは、どのようなお仕事をされているのですか?
山下 最近野草が見直されている面もあり、イベントやテレビ出演も多いんです。でも、これを一時的なブームで終わらせたくない。野草がある生活を「当たり前」に持っていきたいです。コーヒーの代わりに野草茶を飲んだり、パンに練り込んでも良いと思いますし、日本のハーブをもっと使ってほしいんです。
石坂 野草がハーブの代わりになるように、日常化していきたいということですか?
山下 そうですね。自分の家にも生えているものなので、より身近ですし。日本のハーブの価値を伝えていきたいです。
石坂 野草を知ることで、生活が変わったという方はいらっしゃいますか?
山下 「生活が丁寧になった」という方は多いですね。お風呂に入るときもハコベを入れてみようとか。1日1日を丁寧に過ごせるというのは、僕自身もすごく感じています。この料理にこれを使おうと思うだけでウキウキするし、日々の癒しにもなったりするので。季節が植物で感じられるのはありがたいことです。
石坂 野草を通して幸せを感じるというのは、すごく大事なことですよね。野草を通して生活に潤いが生まれるとか、四季が感じられるとか、生活が丁寧になるとか、そういうメッセージは共感する人がすごく多いと思います。
山下 僕が野草研究家を本格的に初めたのは3年前なのですが、明らかに感動の回数が増えました。10倍くらい違います。それまでは気づかなかったような、「ここにこれが生えているんだ」という発見だけで感動するようになりました。
石坂 それって、感性の高さも大事だと思うんです。同じ森に入っても、何も感じない人もいる。受けられる感覚がないと、何にも感じないことになる。私は、自然と対話することによって得られるものって、非常に多い気がしています。野草を通して人生観が変わったりするのも素晴らしいことですね。
野草の魅力を一言で語ると何ですか?
山下 難しいですよね、いろいろあり過ぎて…。
でも一つ言えることは、野草をきっかけに世界が広がって、野草のおかげであらゆる面で人生が豊かになっているということです。野草や植物のおかげで出会った方もたくさんいるので、野草に恩返ししていかないとな、と思っています。
石坂 野草の研究をされている方で、山下さんのように野草全体を体系化して伝えている方は他にもたくさんいらっしゃるんですか?
山下 少ないんです。それぞれの分野においては専門の先生がいらっしゃるのですが、草も木も野菜も含めて全部説明できる人はすごく少ないので、僕はそういう人になりたいと思っています。
石坂 山下さんと同じように、それを話せる人を全国各地に増やしていきたいという想いもありますか?
山下 あります、もちろん。人を育てていきたいという想いはあります。
石坂 里山のフィールドを活かして、座学でもフィールドでも野草について学べる場所をつくりたいですね。これは、日本の価値として世界に誇れると思います。
山下 これだけ良い教材がありますもんね。座学をやって外を見ると、全然違いますからね。どっちかだけでもダメで、外で見たものを中で整理することも必要ですし、両方が大事です。
石坂 生態系の連鎖などは、詳しく知らない方も多いので、「野草」というキーワードから、どうやって環境や生物多様性といった課題解決につなげていくか、可能性を探りながら、活かし方を一緒に探っていきたいですね。
※1 F1種・・・一代交配と呼ばれ、大量生産や安定供給に対応できるよう人為的に改良した種
※2 固有種・・・「普通の野菜の種」のことで、長い時間をかけて気候や風土に適応した種


◇山下智道/プロフィール
1989年福岡県北九州市生まれ。両親の影響もあり、幼少より植物や野草に傾倒。高校卒業後上京し、芸能関係に従事。2015年より、ハーブ王子として、日本の野草の本格的研究を開始する。メディカルハーブ検定、山菜知識者取得などを取得し、野草やハーブの魅力を伝えるため、日本全国で野草散策ガイドやワークショップを開催するなど、積極的に野草の啓蒙活動を行っている。2018年に著書『野草と暮らす365日』(山と渓谷社)を出版。
ハーブ王子公式ファンサイト:https://www.tomomichi-yamashita.com/

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