アメリカ農務省オーガニック担当
モニーク・マレス氏が来社

世界中の農業生産者が取り組み始めているオーガニック。その普及の推進者として、オーガニックの重要性と現状の課題を発信し続け、発展に寄与されているモニーク・マレスさん。オーガニック分野について貴重な意見交換となりました。

忙しい来日スケジュールの中、訪問してくださったモニークさん(左)と石坂代表。

オーガニックを通して、現在の食生活を含めた
「食」の世界を変えていく必要があると感じた。

石坂 当社でも農作物、特にオーガニックの世界には強い関心があります。まずは、モニークさんが現在の仕事であるオーガニックの分野に携われたきっかけからお話をお聞きしたいのですが?

モニーク もともと、私は子どもの頃から毎日の生活に「食」が根づいていました。祖母は自分の農園で野菜を栽培して収穫し、その収穫量によって生活費が決まる、というように生活の糧そのものが「食」でした。 「食」を通して人とコミュニケーションをとるのです。「食」に興味を持ったのはその子どものころの経験が影響していま

す。農家などのコミュニティが自分の起点でした。ですので、そこから社会を見るようにもなりました。大学で専攻する学問分野も仕事も、「食」を中心に選択するようになっていました。そして、この分野で仕事をしよう、と志したのは現在の食生活を含めた「食」の世界を変えていく必要があると強く感じたからなのです。通常の「食」の分野と違って、オーガニックの世界は生産工程だけでなく、流通なども含めた仕組み作りを根本的に見直していく必要があります。そこに大きなやりがいを感じていますね。

石坂 人は食べることから「食」に興味を持つのが一般的だと思いますが、そうした生い立ちから、食べ物が販売されていくプロセスに関心を持たれた着眼点が面白いですね。人生の選択や志向の基準が独特で興味深いですね。そのような中で、オーガニック分野が、特に重要だと思われたのは、どのようなことからだったのですか?

モニーク 大学生の時に、CSRについて学習し、南米に旅行する機会がありました。そこで大変驚く事実を知りました。南米では農業生産者の健康についてまったく考えられていない生産プロセスが当たり前のように行われていたのです。この生産方法では、農業生産者の健康被害を避けることができない、ということがわかっていながら誰もそれを改善することもできず、手をこまねいていました。すべてが生産を中心とした動きになっており、バランスがくずれていることに大きな課題を感じてしまったのです。

石坂 なるほど、そんなご経験があったのですね。現在のアメリカの農業では、オーガニックのような、厳しい生産活動はどれくらいの割合なのでしょうか?

モニーク 現在、オーガニック生産が行なわれているのは、消費量で言うと5%。しかしながら農地から見ると1%の割合にすぎません。残りはすべて従来の生産方法が行われているのが実態です。世界の状況を見てみると、最も高い数値の国はデンマークで11%。オーガニック生産に対して最も予算を投じているのはスイスです。

農業の革新的な取り組みは、
オーガニック生産の現場で始まっている。

石坂 以前、日本の居酒屋で廃棄した食物残渣を准肥化するところを見学したことがあるのですが、そこで見たのは、アメリカ産のグレープフルーツだけが腐らないで残っていたという状況でした。世界中の「食」を見てこられた経験の中で、何か衝撃を受けた出来事はありましたか?

モニーク いろいろな農業の生産方法がある中で、オーガニックを選択する人々は高い意識を持っています。だからこそ、様々な工夫もしますし、多くの人も集まってくる。これは世界中どこでも見られる傾向です。逆に従来型の生産方法を行なっていると、だんだんと土地が痩せて生産が出来なくなる。いずれは、その土地から去らなければならなくなってくるのです。そんなオーガニック生産者の割合が少ない状況下においても、農業の革新的な取り組みは、オーガニック生産の現場でおきているという実態があります。

石坂 実際、アメリカ国民の方々はオーガニックの食物を選択する、という意識はどれほどあるのでしょうか?

モニーク この分野の成長率は10.5%。通常の観光農業の成長率は0.6%なので、オーガニックの方が成長率は高いと言えます。観光農園のように、狭い土地でたくさんの食物を生産していく場合は多くのゴミを出すことにもなります。オーガニック製品は、腐らないグレープフルーツと違って、腐敗の進行が速いのが特徴です。そのため、ゴミとして出すことのないように全体の生産工程を管理していくことや工夫が重要と言えます。

「量」に重きを置くのではなく、
「質」に対する消費者の意識を高めていかなければならない。

石坂モニークさんが目指す姿、到達したい仕組みとは、どのような状態ですか?

モニーク 生産工程も含めた望ましい仕組みは、「あるものを全て使う、活かす」ことにあります。マーケット全体を通して出てくるものを多面的に活用していく、リサイクルしていくという考え方が重要だと思っています。たとえば、有名なレストランに流通可能な商品は限られていますが、市場全体を見渡せばもっと別の流通の展開ができますよね。「オーガニックの市場をつくる」ということは、農家の生産者、また流通関係者だけではできません。やはり、消費者の意識、消費者自身がオーガニックの生産プロセスを理解し、賛同してサポートしていかなければ成り立たないのです。それは、オーガニック食品についてだけではなく、リサイクルしていくことも含めて、「質」に対する意識を高め、「量」に対しては重きをおかない、という考えが大切なのです。アメリカの大きな課題は、量産するために薬品を使い、食物を日持ちさせるという経済合理性の追求を重視していることです。そのために、なかなか意識を変えることができないのです。

食品ロス問題やリサイクルに対する関心も高く、弊社の工場見学にも時間を割いていただきました

石坂 日本もアメリカナイズされてきて、価値観が経済追求型になってきているのが実態です。産業廃棄物の業界も同じで、消費者の意識や価値観を変えていかなければ適正な処理ができない。まさに、オーガニックの市場と根底の課題が似ていると感じます。こうした価値観に対しては、やはり教育を変えていかないと変革が起きないと思います。

モニーク 石坂産業を訪問する前に、ホームページをじっくり見させていただきました。ホームページ内にある「ネグレクトしないでリスペクトしてください」というメッセージに共感しました。「食」も同じで、スーパーに並んでいる野菜のように、キレイに洗ってパッケージされていれば良いと思う消費者が多い。その背景にある人々の努力に気づく人はまだ少ないように思います。日々畑で土にまみれて生産する農家の方や、流通で商品を早く店舗に届けるために動いている人たちの努力や苦労はあまり理解されていません。この背景がきちんと理解され、尊重されることで、初めて良い関係が生まれるのではないかと思います。それを実現していくのが自分の仕事だと思っています。

石坂 とても共感します。裏にある背景をどう可視化させるかということが課題で、それを伝えていくことは、とても難易度が高いと感じています。

モニーク 日本には「もったいない」という言葉があり、その文化が根づいていますよね。アメリカにはそんな文化もありません。

オーガニックはパワーのかかる農業。
しかしアメリカでは、オーガニック農家をサポート
していこうという動きが近年出てきている。

石坂 アメリカの農家・生産者の方々の意識としては、オーガニック商品を作っていきたいという方向性はあるのでしょうか?つくりたいけど経済合理性が合わずに断念しているという人たちが多いのか、そもそも全くそういう意識はないという状況なのでしょうか?日本の場合は、良いものを作りたいが経済的に厳しくて対応できないというのが生産者の声なのですが…。

モニーク オーガニックに携わる農家は、24,000農業従事者がいますが、その中の8割が中小規模です。通常の農業からオーガニックへと移行するのに3年間という厳しい期間があります。3年間生産活動を決められた条件の中でしっかりやっていた、と認証されないと移行できません。その間、農薬等を使わず、決められた条件の中で農業をしていくことは大変パワーがかかります。この期間を生き延びることが経済的にも大変です。
アメリカでは、この期間をサポートしていこうとする動きが出てきています。その3年間を乗り越えると、基本的にはある程度オーガニック農業として成立するようになり、売り上げも33%ほど上がるようになります。ここまでくれば、オーガニック農業としてやっていけるようになりますが、ここまで持ちこたえることが大変なのです。

石坂 当社においても農業を始めて丸2年。有機農法を始めてまだ3年経っていないので、オーガニック認証は取れていませんが、GLOBAL GAPとASIA GAPを取得しました。でも、今が一番苦しい時だといえるかもしれません。アメリカサイドから見ると、GLOBAL GAPやASIA GAPは、どのような評価なのですか?

モニーク GAPに関しては、ヨーロッパの方が進化していて、より多く取り入れているのが実態かと思います。アメリカでは、アメリカ独特の認証制度があるので、これとGAPを比較して取り入れていくのは、仕組みを切り替えるなどの問題点もあり時間がかかるのではないでしょうか。また、市場の違いもあります。ヨーロッパは自給率が少なく、輸入によって成り立っています。アメリカは逆に、自国で生産している率が高い。こうした環境の違いから、ヨーロッパでは輸入元の製品がGAP等の認証を受けているかが品質の状態を把握する目安となり、そうした仕組みが必要だったのだと思います。ですので、スーパーマーケットでもGAP認証がある製品かどうかを重視しているようです。

体験や教育を通して「オーガニックには
社会的価値がある」と理解してもらえれば、
この先もっと成長できる。

モニーク 市場の規模からいうとアメリカは一番大きな市場です。金額的な視点で見れば47兆円市場です。消費者の意識の中では、観光農業からくるものとオーガニック商品とを、単なる商品の価格や見え方という点だけで見てしまいがちですが、もう一歩進めて考えると、これを購入することによる社会的価値を理解してもらえると良いですね。この意識をうまく育てられないと、なかなか成長していかないと言えます。

石坂 意識を育てるという観点では、日本の教育で足りないのは体験させること。例えば、まがったきゅうりがおいしいということを体験を通して教育すべきだと思います。スーパーで並んでいる「まっすぐなきゅうり」が当たり前。「これがおいしいきゅうり」という意識が強いために、結果的にまっすぐなものしか作らないという悪循環になっています。子どもたちに「いい野菜」を作らせればいい。もっと体験して知るべきだと思いますね。

モニーク 日本の野菜は、価格が安いものでも質が高い。日本のコストパフォーマンスは世界一だと思いますね。海外の人たちは日本の食を小さく捉えているし、和食に対する概念も一方的な見方が多いと思います。もっと高い価値観で見ていくべきですね。その一方で、食品ロスも世界一。そこは問題だと思います。食品ロスを減らすべきだと感じています。多くのレストランのシェフも、この実態をもっと知るべきですね。アメリカの課題は、小売業界が強すぎること。スーパーマーケットが消費者を洗脳している。人間の味覚もおかしくなってきています。化学調味料がたくさん入っている味が当たり前になっていることも問題ですし、子供たちは、食品がどうやってできているのかを知らないために、ミルクはスーパーマーケットで出来ていると思っているほど…。やはり、食に対する「事実」や「意識」を教育していくことは両国ともに重要なことですね。

石坂 体験や教育。食を通して取り組むべき課題はまだまだたくさんありますね。貴重な情報やご意見をいただき、誠にありがとうございました。

モニーク・マレス/プロフィール
Organic trade association Monique Marez Director INTERNATIONAL Trade
アメリカ農務省オーガニック食品担当 モニーク・マレス(33歳)
インターナショナル・トレードディレクター。
今回日本へは、アメリカUS農務省のオーガニック担当としてのプレスを目的に、オーガニックライフイベントのスピーカーとして来日された。アメリカ農務省として海外で発信をする取り組みは初めての試み。