新宿調理師専門学校の上神田梅雄校長が、石坂代表と対談されました。

日本料理の世界を極め、現在、新宿調理師専門学校の校長として人材育成の現場をリードされている上神田梅雄先生と弊社石坂代表の対談が、くぬぎの森・交流プラザにて行われました。常に本質を追求してこられた上神田校長のお話には、「人生訓」となるような心に残る言葉がちりばめられており、学校と企業のあらたな取り組みへの架け橋となる貴重な時間となりました。

上神田校長と石坂代表~緑の息吹を感じ始めた里山の前で

「心がまえ」という基本を問い続けること。
それが、人を育てるために不可欠なことです。

上神田校長 調理師専門学校というところは、料理の職に就くための学校ですが「人間教育の場」でもあります。国家資格の免許を取得させることだけが教育の目的ではありません。社会に出て一人前の人間として認めていただく、職場の先輩方に可愛がられる存在になる、そうした人間性を身につける第一歩として、「挨拶」を徹底させる工夫を続けています。まずは教える側の先生方が、学生よりも先に挨拶し、声をかけることを実践させています。

石坂 弊社でも「おもてなしの心」を社員一人一人が実践できるよう取り組んでいます。大切なのは心の持ち方。つまり、自分は何のために働いているのか、この仕事は誰のためにやっているのか、を考えて取り組むことを重視しています。そのためには、料理の世界も同じかもしれませんが、自分たちの使う道具を大切にすることから始めさせています。たとえば、スコップ1本にも愛着を持ち、手入れや掃除を怠らない「心がまえ」を大切にしたいと考えています。

上神田校長 職人と呼ばれる仕事に就く者は、道具を大切にしなくてはダメです。昔の料理人は職場を探す際に、「道具改め」という面接のようなものを受けていました。その人の使う包丁を見れば、職人としての力量、職人としての心がまえというものが、すべてわかってしまうということです。もちろん、見る側にも眼力が問われますけどね。

石坂 確かにそうですね。以前、ダイワハウスの樋口会長にお話しを伺ったことがあるのですが、創業者が実践されていたことは社員の靴底を見ることだったそうです。「営業活動イコール現場に足を運んだ回数だ」というお考えがあって、靴底が一番減っていた社員をほめていたそうです。やはり本質を極めた方々は、必ず道具を見て判断するのですね。

上神田校長 活きた学び、「活学(かつがく)」こそ大切にすべきものなのです。ですから、学校での教育においても、良き習慣を身につけさせることに注力しています。これは私自身の「母の教え」でもあるのです。「自分から挨拶すれば、相手の方も頭を下げてくださる。そうすれば、こちらもまた相手の方の幸せを祈る気持ちが芽生える」ということを母から教えられていました。だから、学生たちにも自分から挨拶をすること、そして相手から何かを聞かれたら、0.2秒で返事すること(笑)、を徹底させています。

石坂 コミュニケーションの面でも課題を感じていることがあります。人の話を耳で聞くだけで、心で聞ける人が少ないですね。耳で聞いて右から左へ出していくだけ。だから、人から言われたことが身につかない。企業に就職してから、そうした基本的な人間教育が必要になっているのが日本の現状だと思います。環境リサイクル事業でつながりのあるフィンランドの例ですと、「大学に入学したら企業からの課題しか与えない」と言います。大学で学ぶことがそれだけ実践的なことなのです。この時点ですでにスタートラインのレベルに差が出ているようにさえ感じてしまいます。上神田先生のご経験から、「心で聞ける姿勢」というものはどこから生まれてくるものだと思われますか?

上神田校長 以前に中学校の家庭科で特別授業をしたことがあるのですが、その時に作る料理をあえて味噌汁にしたことがあります。そこで、お米のとぎ汁が出汁になり、無駄に捨てるものではないこと、食材が「水」「空気」「土」「太陽」のおかげでできていること、自然が創った作物は神様が創ったものであるというような、いくつかの話をしました。すべてに感謝する気持ちを理解してほしかったのです。伝統的な家庭料理が持つ素晴らしさが忘れられがちになり、営業用料理ばかりがもてはやされる時代ですが、大切なことは「いただきます」と「ごちそうさま」なのです。世界共通のテーブルマナーとは「感謝していただくこと」だと思っています。

石坂 そうですね。今は家庭でのしつけとして教えていく風潮も減り、学校教育は「学」の部分だけになりがち。そうした作法を忘れてはなりませんね。弊社の交流プラザに食事にいらした子供たちには「いただきます!」と言ってから食べてもらえるようにしたいですね(笑)。廃棄ロスの問題も根底には共通するものがあると思います。ゴミが汚いという前に、ゴミの出し方を変えていく心がまえが重要ですね。何事も感謝の気持ちが不可欠です。

上神田校長 世界には1日1食しか食べることのできない人々がいる中で、一方で、バイキング形式で山盛りにした食事を残して帰るという現実もありますね。三ツ星レストランを狙って、料理ですら、お金のかかることばかりやっていくというようなことも。こうした風潮を改善していくには、国家戦略として取り組まなくてはならないと感じるほどです。

里山というステージを使って、
もっともっと、若い世代に「気づきの体験」
をしてほしいですね。

上神田校長 私たちの学校でも「農業体験」という実践型の授業を導入しています。学生たちに、食材ができるまでの大変さ、調理に必要な野菜を提供してくださる方々へ感謝の念やねぎらいの想いを感じさせることが「心の成長」につながると思い、取り組んできております。石坂産業様が、里山の保全や森を活かした活動に至った経緯やコンセプトをあらためてお聞かせいただけますか。

石坂 産廃処理業をやってきた中で、地域の雑木林に「ポイ捨て」や「不法投棄」などが行なわれる問題に対処していくためには、これはもうジャングル化した森ごと変えていくしかないと思ったのです。生物多様性が失われていく状況にも目を向け、昔からあった「武蔵野の森」というものを復活させたいというのがきっかけでした。自分たちで森そのものを管理していく道を選んだのです。そこから、もちろん最初は素人でしたが、農業にも着手し、有機栽培などにも取り組み始めました。森に遊びに来てもらい、この環境を知っていただく。里山をステージにして、多くの方々に環境を考えるきっかけにしてほしかったのです。里山保全は、幸いにして、地権者の方々の信頼回復、子供たちの喜び、そして我々のビジネスを知ってもらう機会として、ボランティア以上の価値を生み出していきました。

上神田校長 日々、人間の問題だけを相手にしてばかりいると、誰しも同じ顔つきになっていくとも言われていますね。やはり、自然と付き合っている人間、ものづくりに携わっている人間には、わらべのような表情があると感じることがあります。それだけ、人間にとって自然環境に触れていることは大事なことなのでしょう。

石坂 そうですね、自然の中で感覚を研ぎ澄ませていくことで、「虫の眼」という狭い視野から、「鳥の眼」である俯瞰的な広い視野を得ることができます。自分だけの持ち場ではわからないことが、全くちがうフィールドから発見できることがありますしね。その意味では、若い世代の方々に、この里山をもっと使っていただき、様々な「気づきの体験」をしていってほしいです。そうすることで、「自立するってどういうこと?」という本質的な課題解決の方向も見えてくるのではないかと思います。単に、自分で必要なお金を稼いで生活的に自立するということではなく、「人に迷惑をかけていないか」「この仕事は何のためにやっていることなのか」など、人間としての真の自立に必要な感覚に気づくことができると思っています。

料理の世界を目指す学生の方々と
里山に遊びに来る子供たちとの交流を通して、
新たなチャレンジができそうですね。

上神田校長 東日本大震災の被災地にご協力するために、学生ボランティアや炊き出しなどの活動もしているのですが、参加を希望する学生が思った以上に多いのです。誰かの役に立ちたいという想いは、若い世代も強く持っているのです。ボランティア活動などの実践的な体験は、学生自身の成長にもつながりますし、こちらの里山やファームなどと連携してできることがあると思っています。

石坂 この里山には、多くの子供たちが野菜の収穫体験などに来てくれています。たとえば、野菜の収穫に合わせて、調理師を目指す学生の方々にもご参加いただき、畑での収穫から、その野菜を使った調理までを子供たちと一緒にやっていただくなどのアイディアも考えられると思っています。同じ若い世代同士で、里山という環境の中で語らい、交流してもらうことで、自分の自信になったり、苦手意識を改善してもらったりと、人に教える機会の中で得られることはたくさんあると思います。

上神田校長 学生にとっても、人に話す・教えるという経験を積むことは大切な機会になると思います。その1日は、自分たちがマイスターのような立場になって、責任を持って子供たちに対応していくことは貴重な体験になると思います。

石坂 まさに!学生の方々が、調理を通して環境教育に関わり、子供たちに想いを伝えていく先生役になるというのは、意義深いものになると思います。「里山の場を使った若者たちの実践体験」という新たなチャレンジが可能ですね。お互いに成長できる機会を生み出して、親和性の高い関係が築けていけたら幸いです。今日は、貴重なお話を誠にありがとうございました。

上神田梅雄先生/プロフィール

新宿調理師専門学校・校長
銀座「阿伽免(おかめ)」の料理長を皮切りに、24年間、幾多の料理店の総料理長を歴任。卒業後36年を経て、母校・新宿調理師専門学校へ学校長として招聘される。その豊かな経験に裏付けされた、卓越した技能と見識、教員の先頭に立って情熱的な指導・教育をし続けている。同校にて開催される「割烹料理セミナー」は常に人気を博している。
◎著書/若き学生たちに贈るメッセージ集『調理師という人生を目指す君に』を発刊。